英英辞典は使った方がよいか?英英辞典は使った方がよいか?
英語学習者は英々辞典を使うべきだということがよく言われています。本日はこの問題について議論してみたいと思います。

私たち英語学習者はある程度英語がわかるようになると英々辞典を使うことがあります。ところが書いてある定義の中にわからない英語がたくさんあったり、そのわからない英語を調べたらその定義もよくわからなかったりして、結局英々辞典では問題は解決しないので使うのをやめてしまいます。
筆者も翻訳を仕事とするようになってから、単語がわからないとき英々辞典を引くと意味はわかっても適当な日本語が思い浮かばす、結局英和辞典を引きなおすことになったりします。スピードが重要な要素である翻訳の場合、これはムダな時間の消費となります。この結果、長年の間、英々辞典を使わなくなりました。

ところが最近翻訳をやっていないときは英々辞典を引くのが面白くなっています。その理由は英和辞典を引いたのではわからないニュアンスがよくわかるからです。例を示しましょう。やさしいところからいきます。

argueという単語があります。英和辞典を引くといろいろな定義の後に「議論する、論じる、言い争う」などの定義があり、「言い争う」のところにはDon't argue!(言い争いはいけません)という例文もあります。(研究社新英和中辞典、以下同様)
ところが英々辞典を引きますと、冒頭から"to speak angrily to somebody because you disagree with them"(賛成できないので怒りながらそのことを言う)とあり、例文として
My brothers are always arguing. (私の兄弟はいつも言い争いをしています)
We're always arguing with each other about money. (私たちはいつもお金のことでいがみあっています)(OXFORD Advanced Learner's DICTIONARY, OXFORT UNIVERSITY PRESS、以下同様)
とありますからargueと似ている言葉であるdiscussとはニュアンスがかなり違うということがよくわかります。

次にrelate toで比較してみましょう。
英和辞典ですと「つき合う、を理解する」とあって"I just can't relate to that movie."とあり、「あんな映画にはとうていつき合えない」という訳語がのっています。
英々辞典でみますと、
"to be able to understand and have sympathy with somebody/something" (誰か/何かを理解することができ、かつそれに共感を覚える)とあり、例文としてMany adults can't relate to children. (大人たちの多くは子供のことを理解していない)とあります。
英々辞典のほうが語感がよく伝わってきますよね。

今度は少し難しい単語ですが、seedyというのがあります。
英和辞典をみますと「みすぼらしい、見苦しい」とあり、例文としてseedy clothes(よれよれの服)、a seedy hotel (みすぼらしいホテル)とあげられています。

英々辞典をみますとdirty and unpleasant, possibly connected with immoral or illegal activities(不道徳または不法な活動に関連する可能性のある不潔あるいは不快な)という定義で、例文としては
a seedy barは
the seedy world of prostitution
a seedy looking man
とあります。この例文はいきいきと臨場感まで伝えています。

さてこれらの例文は翻訳するとしたらどのように訳したらよいでしょうか。
a seedy barは「みすぼらしいバー」あたりでしょうが、文脈によっては「不気味なバー」とか、極端なところでは「おぞましい飲み屋」とか「さびれたバー」とかいろいろな日本語が浮かんできます。

the seedy world of prostitutionは「売春という得たいの知れない世界」とか「犯罪と隣り合わせの売春という世界」とかの日本語が浮かんできますね。

a seedy looking manは皆さんにおまかせします。

このように英々辞典をひくことはメリットもありますが、デメリットもあります。
端的な例は専門用語にあたるときです。例えば病名です。
cataractという単語を英々辞典で引くと
"a medical condition that affects the lens of the eye and causes a gradual loss of sight"(眼のレンズに影響を与えることによって視力を衰えさせる障害)とあります。
この定義をみて「白内障」とわかるのは眼科の専門家だけだと思います

もう一つの例をあげます。
existentialismという英語があります。英々辞典ですとthe theory that human beings are free and responsible for their own actions in a world without meaning (人間はそもそも自由であり、意味のない人生の行為についてもそれは自己の責任である)と何かわけのわからない英語が書いてありますが、和英辞典を引くと「実存主義」と定義されていますから、実存主義のことを知らなくてもキルケゴールの始めた哲学だということくらいはすぐにわかります。

もう一つの欠点は定義はよくわかるが日本語にすると何と言ったらよいのかわからないときがあることです。これは翻訳の仕事をしているときは困ります。
例えばcrypticという言葉があります。
辞典を引くと、
"with a meaning that is hidden or not easily understood"(隠されている意味、または簡単に理解されない意味)と定義されており、例文としては
a cryptic message/remark/smile
があげられています。

ここで読者の皆さんに質問したいのですが、この英々辞典の定義によって例文は訳せますか。
特にa cryptic smileは訳せないと思います。
ところが英和辞典をひくと「隠れた、秘密の、神秘的な、謎めいた」と定義があり、He made the cryptic remark that the meaning of life is life itself.(彼は人生の意味は人生そのものだと謎めいたことを言った)という例文まで記載されていますから、a cryptic smileは「謎めいた微笑、謎のような微笑」と訳すことができます。

これ以上説明しなくても読者の皆さんはすでにおわかりになったでしょうが、英和辞典と英々辞典のそれぞれの長所を生かし、欠点をカバーしながら使用すればよいわけです。
つまり英々辞典を引いたあと面倒でも英和辞典をひいたり、反対に英和辞典をひいたあと英々辞典をひいたりすることが必要なときもあるわけです。

ここで一つ注意しなければいけないことは使用する英々辞典はネーティブスピーカー用に編纂された英々辞典を使ってはいけないということです。ネーティブスピーカー用の英々辞典は私たちには説明が不十分で語感が十分に伝わってきません。またネーティブが当然理解しているようなスラングもあまり収録されていません。
このような意味でも先にあげた英々辞典は推薦できます。

もう一つ注意したいことはあまりにも早い時期からは英々辞典は使えないということです。つまり書かれている英語がわからないからです。定義の中にわからない単語が出てきますと、それをまた英々辞書で調べようとします。その単語の定義の中にわからない単語があったらまた辞書を引かなければなりません。このようなことをやっているとキリがなく終らなくなりますよね。
英検の2級を取ったくらいから使うのならいいと思います。

ついでにお話しておきますが、thesaurusという英々辞典に似ているものがあります。これは類語辞典とも言うべきもので、通常の英語学習者は使う必要はありません。
日本語から英語の翻訳をする翻訳者が類語を探すのには便利です。もっとも筆者は使ったことがありません。
その理由を説明します。
日英の翻訳を始めたばかりの頃、今から考えると果てしない夢なのですが、何とか私の翻訳した英語が少しはネーティブに近い英語にならないものかと考えました。そこでたった一つの文章のために5分も10分もかけて英文をいろいろいじってみます。このときthesaurusが大活躍します。thesaurusを見てこの表現は使えると喜び勇んで英語を書き直し、ない頭を使ってさらに何回も書き直して翻訳を完成します。ところがその英語がプロのネーティブライターにチェックしてもらうと情け容赦もなくすべて削除され、違った表現に変えられてしまうのです。「あなたがた、頼むから人の苦労も少しはわかってよ」と言いたくなります。
特に腕のいいライターにリライトされますと、あっという間に私の書いた英語はズタズタに分解され、私が書いたという痕跡すら残りません。口惜しいと言えば口惜しいのですが、快感とも言えます。ムチで打たれて喜ぶマゾの快感ってこのようなものなのでしょうかね。
それ以来、私はネーティブに近い英語を書こうという夢は捨てました。
でも考えてるみると日本語の場合も同じでプロの「ものがき」と素人ではまったく違いますよね

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This page was written by Mike Sakamoto.
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